はじめに
オウンドメディアの価値を最大化する上で、インタビュー記事は非常に強力な武器となります。なぜなら、現場のリアルな声や専門家の知見といった「一次情報」を届けられるからです。これは、Googleが検索品質評価で重視するE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)、特に「経験(Experience)」の要素を強化し、コンテンツの独自性と説得力を格段に高めます。
しかし、インタビュー記事の作成は、企画、アポイント、取材、原稿作成、公開後の運用まで、多岐にわたる工程が必要です。一つの工程での小さなミスが、記事全体の質を大きく左右することもあります。
本記事では、企画立案から取材依頼、当日の立ち振る舞い、記事公開後のプロモーションまで、インタビュー記事作成の全工程を網羅的に、そして具体的に解説します。このガイドを参考に、読者の心に響き、メディアの価値を高める一本を仕上げましょう。
【準備編】成功は段取りで決まる
質の高い記事は、優れた準備から生まれます。取材対象者に連絡する前に、まずは「誰に、何を、どのように伝えるか」を明確にしましょう。
1. 記事の「型」を決めて構成の迷いをなくす
目的に応じてライティングの型を使い分けると、構成がブレず、読者に意図が伝わりやすくなります。型を決めてから見出しや質問を考えると、編集工程全体が効率化します。
- PREP法(Point→Reason→Example→Point):結論を先に示す構成。取材の冒頭要約やリード文に適しています。
- PASONAの法則(Problem→Affinity→Solution→Offer→Narrow→Action):マーケティング色が強い導入事例や採用誘導向け。課題提示から行動喚起まで自然に導けます。
- 起承転結:物語性を重視するモノローグやルポに向いています。情景描写や転換点を意識すると効果的です。
2. デザインとレイアウトの最終決定権を明確にする
デザインやレイアウトの最終決定権は事前に明確にしておくと、編集・制作の進行がスムーズです。
- 事前に「デザインは誰が最終決定権を持つか(編集部/デザイナー/クライアント)」を明確にする。
- ページや紙面のフォーマットが先にある場合は、それに合わせた文字数や構成で質問設計を行う。
- 画像点数、キャプションの仕様、見出しの文字数制限など実務的制約は事前に共有する。
【依頼編】快く引き受けてもらうための依頼術
企画が固まったら、いよいよ取材対象者へアポイントを取ります。相手は忙しい中で時間を作ってくれるため、丁寧かつ分かりやすい依頼が不可欠です。
1. そのまま使える!取材依頼メールテンプレート
件名: 取材のご依頼(【媒体名】/掲載予定:●月●日)
本文: はじめまして。●●(所属/肩書)の●●と申します。突然のご連絡で失礼いたします。 このたび、弊社が運営する媒体「●●」(URL)にて、貴社(または貴職)の取材記事を企画しております。ぜひ●●様にご協力をお願いしたく、ご連絡差し上げました。
以下、概要です。ご確認のうえご検討いただけますと幸いです。
―――――――――――― ▼掲載媒体:●●(媒体名/URL) ▼企画趣旨:簡潔に3行程度で目的(例:導入事例として課題と解決策を紹介し、同業の導入検討者に示唆を提供する) ▼希望取材日時:●月●日〜●月●日(平日/午前〜午後の候補を複数)※所要時間:取材本編30〜60分(撮影を含む場合は+30分) ▼取材形式:対面(撮影:有/無)、またはオンライン(Zoom/Teams) ▼取材対象:氏名・肩書・想定人数(例:代表取締役 1名) ▼掲載イメージ:本文約1,200〜2,000字、写真2点(注:サンプル記事URLを添付) ▼原稿確認:取材対象者による事実確認(1回、●日以内のご返信)をお願いしています ▼謝礼:●円(税別)/支払条件:取材月末締め、翌月末振込(請求書発行) ▼備考:必要に応じて契約書・肖像権同意書をご用意します。掲載に関して事前に非公開部分がある場合は速やかにご相談ください。 ――――――――――――
お忙しいところ恐縮ですが、前向きにご検討いただけますと幸いです。 疑問点やご希望があればご返信いただければ調整いたします。何卒よろしくお願いいたします。
署名: 氏名/所属/役職 メール/電話/媒体URL
2. 信頼を高める依頼時のマナーと注意点
- 指名して依頼する:「ぜひ●●さんにお願いしたい」という一言で、相手のモチベーションが上がります。
- 煽る表現は避ける:「早い者勝ち」など相手を急かす表現は、印象を損ねかねません。
- 重要事項は明確に:謝礼、原稿確認の有無、公開予定日などをメール本文で明確に示すと信頼感が高まります。
- 修正ルールを事前に合意:校正回数・修正範囲を事前に合意しておくことで、後工程のトラブルを減らせます。
【取材日編】当日の質を高める現場の知恵
取材当日は、小さな準備や気配りがインタビューの質を大きく左右します。相手がリラックスして話せる環境を作り、最高の一次情報を引き出すためのノウハウを紹介します。
1. 取材する側の心得と準備
- 到着目安:通常は30分前到着を推奨。遠方取材は前泊も検討します。
- メモ:PCでのメモは目線が下がりがち。会話に集中するためにも、紙メモを基本としましょう(手帳やA4メモ)。
- 筆記具:ペンはインク切れのリスクを考え、予備を複数本持参します。
- 時間管理:サッと見られる腕時計が便利です。
- 座り方:正面対座は避け、ハの字型(やや斜め)に座ると対立感が薄れリラックスした雰囲気を作れます。
- 環境チェック:機材設営前に周囲の雑音(エアコン、近隣工事)を確認してもらいましょう。マイク位置や照明も事前チェックを。
- 名刺交換と自己紹介:自分から名刺を渡し、簡単な自己紹介で場を和ませます。
- 身だしなみ:清潔感のある服装を心がけます。
2. 取材される方へのアドバイス(撮影がある場合)
- 散髪:切りたてより「切って1〜2週間後」が写真写りは自然です。
- メイク(女性):過度なメイクは避け、普段の印象に近いメイクが望ましいです。
- 服装の色:黒・紺・ダークトーンが無難。明るすぎる色や派手な柄は背景とぶつかることがあります。
- 小物:ロゴ入りネームタグ等が映る場合は事前に確認しておきましょう。
3. 正確性を担保するテクニック
- 数値の即時復唱:重要な数値やデータは、録音だけに頼らず「売上は前年比で20%増、年間3億円ですね?」とその場で復唱して確認します。これにより聞き間違いが激減します。
- 録音の冗長化:機材トラブルはつきものです。必ず「ICレコーダー(主目的)+スマホ録音(予備)」のように複数の機材で録音しましょう。
- データ管理:ファイル名は「媒体名_対象者名_YYYYMMDD_録音1」のようにルール化し、取材後すぐにクラウド等へバックアップします。
【制作編】読まれる記事に仕上げる
取材で得た貴重な情報を、読者に伝わる形に落とし込んでいきます。効率的な文字起こしから修正のやり取りまで、制作工程のポイントを解説します。
1. 高精度な文字起こし:YouTube+AI活用ワークフロー
- 録画が可能な場合は、動画ファイルを自分のYouTubeアカウントに「限定公開」または「非公開」でアップロードします。
- AI文字起こしツールで一次テキスト化します(タイムスタンプ付き推奨)。
- スマホでYouTubeを再生しながら、画面タップで5〜10秒戻せる操作性を利用し、AI文字起こしの誤りを効率よく校正します。
- 校正は必ず人が行い、固有名詞・専門用語・言い回しを確認します。
- (最重要)セキュリティ: 校了後は当該動画ファイルを必ず削除します。
2. 原稿修正・校正の工数合意と法的注意
- 修正回数・範囲は契約か事前合意で明記します(例:事実確認の校正1回まで、文体変更は編集側裁量)。
- 大企業相手の外注では「下請法」の適用を受けるケースがあるため、不当な追加修正や無償のやり直し要求がないよう条件を明確にします。
- 校正期限を設定し(例:3営業日以内)、期限超過は承諾扱いとする旨を合意しておくと運用が安定します。
3. 記事分割(前編/後編)のリスクと導線設計
記事を前編・後編に分けると後編の読了率が下がるリスクがあります。分割する場合は、前編の末尾で後編を明確に予告し、後編へのCTA(リンク・日付・内容ハイライト)を複数配置してください。
【公開後編】記事の効果を最大化する
記事は公開して終わりではありません。適切にプロモーションを行い、一人でも多くの読者に届けましょう。また、情報漏洩を防ぐためのデータ管理も重要な責務です。
1. 公開後のプロモーション手法
- SNS:X/Facebook等で記事中の「名言」や「数値」などを画像や短文で拡散。インタビュイーにメンションを依頼して拡散協力を促します。
- メルマガ:既存顧客に向けて、要点とCTA(問い合わせ・資料請求)を添えて配信します。
- プレスリリース:話題性が高い内容の場合はプレスリリースを配信し、媒体露出を狙います。
- 広告:ターゲットが明確な場合はSNS広告やリスティング広告で露出を拡大します。
- 二次コンテンツ:ポッドキャストやYouTubeショート、SNS用クリップで別媒体への導線を作ります。
- 効果測定:クリック数、SNS反応、問い合わせ数、滞在時間を追い、次回企画に活かします。
2. 校了後のデータ管理(データ削除・権限管理)
- 公開後に不要な録音・非公開動画は速やかに削除し、削除ログを残すと情報管理が明確になります。
- 関係者以外のアクセス権限は早期に閉じ、特に個人情報や機密情報が含まれる場合は厳格に運用します。
【応用編】社内報向け取材のポイント
社内報はページ数や承認プロセスによって必要な取材時間や工数が変わります。
ページ数に応じた取材時間の目安
- 1/2ページ:取材30分(要点を絞った短時間取材)
- 1ページ:取材30〜60分
- 2〜4ページ:取材60〜90分
注意点: 社内報は承認フローが長くなりがちです。取材時間とは別に、校正・承認に要する余裕(各承認で数日〜1週間)を確保しておくと計画が破綻しません。
終わりに
インタビュー記事の作成は、多くの工程を経て一つのコンテンツを生み出す、総合的な編集スキルが問われる仕事です。それぞれのフェーズで丁寧な準備と細やかな配慮を積み重ねることが、最終的な記事の質を決定づけます。
本記事で紹介したノウハウは、明日からすぐに実践できるものばかりです。取材対象者への敬意を忘れず、読者にとって価値のある情報を届けるという目的意識を常に持つことで、あなたの作るインタビュー記事は必ずメディアの資産となるでしょう。ぜひ、このガイドを片手に、素晴らしい記事制作に挑戦してください。