はじめに
インタビューを成功させるためには、本番前の準備がすべてと言っても過言ではありません。聞き漏らしや進行の迷いを防ぎ、取材内容を質の高い記事へと仕上げるには、事前に確認すべきポイントを体系的に整理しておく必要があります。
本稿では、事前準備から質問設計、インタビューの実施、編集、公開までの流れをまとめた実践ガイドを紹介します。対面・オンラインそれぞれの注意点、円滑に進めるためのモデレーションのコツなど、深掘りの視点までを網羅しました。
成功率を上げる準備の考え方
準備の段階で勝負の大半が決まります。ここでは、設計と合意形成にエネルギーを割くこと、適切な対象者定義、礼儀としての事前リサーチ、実務に使える台本の構造、そしてモデレーターの役割を簡潔にまとめます。
- 成功の8割は「設計」と「合意形成」
目的・想定読者・アウトプット形式・評価指標を事前に揃えておくことで、取材中の迷いや話題のブレを防げます。
- 対象者定義とリクルートの精度が質を左右する
誰に話を聞くのかが曖昧なままでは、会話は浅くなりがちです。ターゲット条件を明確にし、適切な対象者を選定することが重要です。
- 事前リサーチは「礼儀」であり「効率化」でもある
既出情報を把握しておくことで、当日の質問が冗長になるのを防ぎ、相手の時間を尊重した対話が可能になります。
- 台本は三層構造で設計する
「必須」「任意」「深掘り誘発」の三段階に分けておくと、時間配分や話題の切り替えがしやすく、現場が安定します。
- モデレーターは「聞く・整える・守る」役割を担う
発言を引き出すだけでなく、議論を整理し、バイアスや逸脱から場を守る姿勢が、質の高い対話につながります。
これらの考え方を踏まえ、次のセクションでは具体的な設計手順に落とし込んでいきます。
調査設計:目的と到達点を定める
調査設計は「何を持ち帰るか」を明確にする工程です。成果物や評価基準を言語化し、関係者の期待を揃えることで、取材後のアクションにつながるインサイトが得やすくなります。
テーマと検証したい仮説を決める
まずは調査テーマと検証仮説を決め、対象読者や想定される読後行動まで書き出します。下表は典型的な項目です。各項目はあらかじめチームで合意しておきましょう。
| 設計項目 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 調査テーマ | 新製品βの初期体験の摩擦点を把握する | 探索の範囲を絞る |
| 検証仮説 | 初回オンボーディングの文言が不安を生む | 深掘りの起点を用意 |
| 読者/利害関係者 | プロダクト/採用/広報/経営 | 後工程の意思決定者を明確化 |
| 想定読後行動 | 改善要件の合意/応募促進 | 最終的な“使われ方”を定義 |
期待するアウトプット・評価指標を言語化する
どの形で成果を出すか(記事・レポート・特集など)と、それぞれの成功指標を定めます。KPIを定量・定性の両面で設定しておくと、編集方針や配信戦略が決めやすくなります。
| 成果物 | 体裁 | 成功指標(KPI/KSF) |
|---|---|---|
| インタビュー記事 | 3,000〜5,000字、写真5枚 | 滞在時間、完読率、SNS保存数 |
| UXレポート | 課題・洞察・要件の箇条書き | 改善チケット化数、採用率 |
| 採用向け特集 | 人柄/チーム文化の可視化 | 応募数、面談化率、辞退率改善 |
インタビュアーの立場と観点を揃える
インタビュアーが見る軸を共通化しておくと、同じ発言から得られるインサイトにムラが出ません。事前に立場ごとのチェックリストを作るのがおすすめです。
| 観点 | 具体化の質問 | バイアス対策 |
|---|---|---|
| 事業 | 価値仮説/市場文脈 | 仮説を紙出し→反証質問も用意 |
| 読者 | 何を知りたい/何で迷う | ペルソナの“知識前提”を定義 |
| 取材倫理 | 匿名/オフレコ基準 | 冒頭で運用方針をリマインド |
これらを踏まえて、対象者の定義とリクルート戦略に進みます。
対象者の定義とリクルート戦略
良いデータは適切な人選から生まれます。ここではペルソナ設計、募集チャネル、依頼文の作り方、謝礼設計について実務的にまとめます。
ペルソナとセグメントの明確化
ペルソナは属性・行動・心理の3軸で設計します。偏りを持たせるか均すかは目的次第です。行動データを裏取りすると対象の信頼性が上がります。
| 軸 | 選択肢例 | メモ |
|---|---|---|
| 属性 | 年齢/職種/経験年数/地域 | 偏りを意図的に作る or 均す |
| 行動 | 利用頻度/決裁権/導入経験 | 行動ログや購買履歴で裏取り |
| 心理 | 動機/価値観/抵抗要因 | ラダリングで深層価値へ接続 |
候補者募集のチャネルと依頼文の作り方
募集チャネルごとに向き不向きがあるため、目的に合わせて使い分けると効率が上がります。依頼文は一読で要点が伝わる長さにまとめましょう。
| チャネル | 向き/不向き | 依頼文の要点 |
|---|---|---|
| 既存顧客/社内 | 速い/条件精緻 | 目的/所要/謝礼/期待役割を1スクロールで |
| 調査会社/パネル | 条件厳密/コスト | スクリーニング設問と除外条件を明記 |
| SNS/コミュニティ | ニッチ層/スピード | オープン可否/守秘/申込動機を設計 |
| 既存記事読者 | 質高/ファン層 | 記事末に募集導線/フォーム簡潔 |
依頼文の骨子
| 項目 | 内容例 |
|---|---|
| 件名 | インタビューのご協力依頼(60分/オンライン可/謝礼◯◯) |
| 冒頭 | 目的と活用範囲(誰の何に役立つか) |
| 実施概要 | 日時候補、所要、形式、録音有無 |
| 期待事項 | 話題範囲、事前準備(データ/数値など) |
| 謝礼 | 金額/支給方法/交通費 |
| 守秘 | 公開・匿名・オフレコの扱い(その場でのオフレコ指定方法=合図やチャット明記のルールを事前提示) |
| 原稿確認 | 範囲(事実のみ or 表現含む)・回数(例:最大2回)・期限(例:初稿送付後5営業日)を明記 |
| 返信方法 | フォーム/メール/締切 |
| 掲載イメージ | 記事の構成案や見出しイメージを添付し「一緒に良い記事を作る」前提を共有 |
謝礼・交通費などのインセンティブ設計
謝礼は業界や役職に応じた相場を基準に設定し、支払い方法や税務上の扱いを明記しておくとトラブルが減ります。
| 形態 | 相場感 | 注意点 |
|---|---|---|
| 金券/ギフト | 3,000〜10,000円/60分 | 業界・役職でレンジ調整 |
| 現金/振込 | 5,000〜20,000円/60分 | 源泉・経理処理の案内 |
| 自社特典 | 無償期間/割引 | 利害関係の明示/誘導性に配慮 |
| 交通費 | 実費精算 | 上限/領収書ルール明記 |
一般消費者向けは上記の金額帯が目安です。専門家や経営層などのエキスパートを対象とする場合は、1時間あたり15,000〜30,000円以上が一般的で、専門性や職位、募集チャネルに応じて調整します。
実施形式の選択:対面かオンラインか
対面とオンラインはそれぞれ長所短所があります。目的、対象者の都合、機密性などを勘案して選び、運用上のチェックを事前に詰めておきましょう。
対面で実施するメリット・留意点
対面は非言語情報が豊富で、試用や手元の観察がしやすい反面、会場確保や移動といったコストがかかります。事前に部屋や機材の配置を確認しておくと安全です。
| 観点 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 関係構築 | 非言語情報が豊富/試用が容易 | 会場費/移動調整/拘束時間 |
| 記録 | 音/表情/手元の同時収録 | 録音環境と機材冗長化 |
| セキュリティ | 機密デモ/現物評価 | 入館・持ち込みルール |
オンラインで実施するメリット・留意点
オンラインは地理的制約が少なくコストも抑えられますが、通信品質やツールの習熟度が結果に影響します。録画や文字起こしの運用も事前に合意しておくと安心です。
| 観点 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| リーチ | 地理制約なし/募集が容易 | 通信品質・ツール習熟 |
| コスト | 低コスト/日程柔軟 | 画角/音質/同席者の可視化 |
| 記録 | 自動録画/文字起こし連携 | 許諾文言/保存先の管理 |
事前リサーチで理解を深める
取材前の調査は、会話を短時間で本質に導くための最重要工程です。表のソースをチェックして、追質問リストを準備しましょう。
| 項目 | 目的 | ソース | メモ |
|---|---|---|---|
| 現在の業務/活動 | 前提共有/ズレ防止 | LinkedIn/会社HP/登壇資料 | 最新役割とKPI |
| 経歴・バックグラウンド | 物語の軸/転機 | プロフィール/過去記事 | 年表化して持参 |
| 書籍・記事・発信物 | 既出/深掘りの起点 | note/ブログ/メディア | ダブりを避け“変化”を問う |
| SNSの最新トピック | 今の関心/口調 | X/Instagram | センシティブ投稿の扱い確認 |
| 既存インタビュー | 反復と差分 | 過去取材/登壇Q&A | 追質問リスト化 |
| 直近ニュース(個人/企業) | 時事・節目 | PRTIMES/IR/業界紙 | 祝意/文脈の前置き |
| 見解・スタンス | 価値観/こだわり | 記事/発言/講演 | 反証視点も準備 |
質問づくりと進行台本
良い質問は構造化から生まれます。ブレインストーミングで問いを出し切り、重複整理・グルーピングを経て台本に落とし込みます。序破急の設計を意識すると時間配分がうまくいきます。
ブレインストーミングで問いを出し切る
まずは質を気にせず、思いつく限りの問いを書き出します。この段階では取捨選択せず、量を出すことが重要です。付箋やスプレッドシートを使って個人で洗い出したあと、全体で集約し、重複するものや意味の近いものを整理していくと、論点の抜け漏れを防ぎつつ、質問の全体像を効率よく把握できます。
重複整理とグルーピングで骨子化する
問いは「背景」「本題」「未来」などのグループに分け、代表問いと深掘りサブ問いを用意します。これで当日の深掘りがスムーズになります。
| グループ | 代表問い | 深掘りサブ問い |
|---|---|---|
| 背景 | いま何に取り組む? | 成果指標/制約/関係者 |
| 本題 | 成功/失敗の要因は? | 例外/再現条件/選択の理由 |
| 未来 | 次に何を変える? | 前提の変化/代替案 |
オープン/クローズド質問の使い分け
質問形式を使い分けることで、話の広がりと事実の確定を両立できます。導入はオープンで関係構築し、中盤でクローズドに切り替えるのが一般的です。
| 形式 | 使いどころ | 例 |
|---|---|---|
| オープン | 関係構築/価値観/ストーリー | どう受け止めましたか? |
| クローズド | 事実確認/分岐/優先度 | 期日は今期末で確定ですか? |
| スケール | 満足/重要度 | 満足度は10点満点で何点?なぜ? |
| 対比 | 判断基準の抽出 | A/Bで直感的に惹かれるのは? |
| 仮説検証 | 仮説提示への反応をみる | もし予算が倍なら最初に何へ投資しますか? |
6W2Hと時間軸を意識した深掘り
6W2H(When/Where/Who/What/Why/How/How many)を意識し、時間軸(過去→現在→未来)を組み合わせることで、発言の文脈を正確に捉えられます。まずは「現在」から切り込むと負担が小さいです。
| 観点 | 具体化の問い | 狙い |
|---|---|---|
| When/Where/Who | いつ/どこで/誰と | シーンの再現 |
| What/Which | 何が/どちらが | 対象の特定 |
| Why | なぜ/背景は | 動機・価値 |
| How/How many | どうやって/どれくらい | プロセス・規模 |
| 時間軸 | 過去→現在→未来 | 物語と変化の把握 |
序破急を意識したインタビューフロー設計
序破急の流れで時間配分を明確にしておくと、最重要事項を取りこぼしません。台本は短く箇条書きで一目で把握できる体裁にすると現場が回りやすいです。
| フェーズ | 時間目安 | 目的 | 例 |
|---|---|---|---|
| 序(導入) | 5–10分 | ラポール/ルール確認 | 軽い成功体験/同意事項 |
| 破(本題) | 30–60分 | 深掘り/反証/具体化 | 例外探索/対比/ラダリング |
| 急(収束) | 5–10分 | 要約/確認/次アクション | 要点合意/不足確認 |
当日に向けた最終チェック事項
当日は機材・接続・進行の最終確認が命です。チェックリストを一つずつ潰しておくと安心して現場に臨めます。
会場・通信・録音機材の確認
音声と映像のテスト、バックアップ手段、データ保全の手順などを現場で再確認してください。簡単な代替策も用意しておきましょう。
| 項目 | チェック | 代替策 |
|---|---|---|
| 音声 | テスト録音/バックアップ端末 | 外部マイク/スマホ予備 |
| 映像 | 画角/照明/背景 | 簡易ライト/背景ボケ |
| 会場/接続 | 防音/入館/Wi-Fi/部屋サイズ/電源 | 有線/テザリング |
| データ保全 | 保存先/命名規則/世代管理 | クラウド/二重保存 |
想定質問の最終レビュー
- マスト5問、任意10問、深掘り促進ワードを明示
必ず聞く質問と状況次第で使う質問を分け、さらに深掘りに使うキーワードや切り口をあらかじめ書き添えておきます。
- 時間配分と「切り替え合図」の記載
各質問に目安時間を割り当て、次の話題へ移るための合図やフレーズを用意しておくと、進行が滞りにくくなります。
- 禁止質問(機密/差別/誘導)の赤字マーク
触れてはいけない質問や表現は明確に区別し、誤って口にしないよう目立つ形で示しておきます。
参加者・対象者へのリマインド
リマインドは複数回行い、直前の接続情報や遅延時の連絡先を確実に伝えます。形式は相手に合わせて選びましょう。
| タイミング | 内容 | 形式 |
|---|---|---|
| 前日 | 時間/場所/接続/持参物 | カレンダー招待/メール |
| 3時間前 | 参加URL/入館方法再送 | 自動リマインド |
| 直前 | 遅延時の連絡先 | SMS/電話 |
進行表と役割の共有
当日の進行表を時刻ごとに分け、担当と備考を明記しておくと滞りなく進行できます。録音許諾の再確認など、重要項目は冒頭に入れます。
| 時刻 | フェーズ | 担当 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 00:00 | 導入/同意 | モデレーター | 録音許諾再確認 |
| 00:05 | 背景 | モデレーター | 氷解質問 |
| 00:15 | 本題1 | モデレーター/利害関係者 | 補足1問まで |
| 00:45 | 本題2 | モデレーター | 例外探索 |
| 00:55 | 収束 | モデレーター | 要約/不足確認 |
話しやすい場づくりと聞き方
場づくりは短いフレーズや具体的な称賛で効果を発揮します。深掘りには言い換えや具体化の型を使い分けましょう。
信頼関係づくり(ラポール形成)と導入の工夫
導入で相手の努力や最近の発信を具体的に褒めると信頼感が早く築けます。ルールの再掲も忘れずにしましょう。
| 手法 | フレーズ例 | 効果 |
|---|---|---|
| 相手の努力の具体称賛 | 直近◯◯拝見し、特に△△が印象的でした | 安心/信頼 |
| 事前合意の再掲 | 録音は◯◯まで、オフレコはこの合図で | コントロール感 |
| スモールトーク | 最近のトピック/共通項 | 緊張緩和 |
深掘りの型(言い換え・具体化・対比)
深掘りは型を持つことで抜け漏れを防げます。言い換えや例外探索、ラダリングを活用して本質に迫りましょう。
| 型 | ねらい | 追い質問例 |
|---|---|---|
| 言い換え確認 | 意味の一致 | 要するに◯◯という理解で合っていますか? |
| 具体化 | 行動レベルに落とす | 直前の動き/画面/言葉は何でしたか? |
| 対比 | 判断軸の抽出 | うまくいく時/いかない時の違いは? |
| ラダリング | 価値に到達 | それが大事なのは、何に繋がるから? |
| 例外探索 | 再現条件 | 例外的にうまくいった一度を教えてください |
| 感情に迫る | 動機や価値観を可視化 | その瞬間どんな気持ちでしたか?何が引き金でしたか? |
| 具体場面想起 | 抽象→具体の橋渡し | 最後に使った場面を、映画のワンシーンのように描写してください |
| 視点を変える | 多角検証 | あなたの上司/友人ならこの状況をどう評価しますか? |
避けたい振る舞い(遮る・誘導する 等)
インタビューでは、何気ない振る舞いが取材全体の質を下げてしまうことがあります。相手の発言を引き出すつもりが、結果として話しづらさを生んでしまうケースも少なくありません。誘導的な聞き方や詰問調の進行、聞き手の自己主張が前に出すぎる場面は、意識して避ける必要があります。
- 同意前提の質問を避ける
「〜ですよね?」と結論を含んだ聞き方は、相手の自由な発言を制限してしまいます。
- 連続質問で詰めない(1問1目的)
一度に複数の質問を投げると、論点がぼやけ、回答も浅くなりがちです。
- 自分語りで時間を消費しない
背景説明のつもりでも、聞き手の話が長くなると主役が入れ替わってしまいます。
- 相手の言葉を修正・要約しすぎない
要約は最小限に留め、相手自身の表現を尊重することが重要です。
インタビュイーへの配慮と倫理
インタビューは情報を引き出す行為であると同時に、相手の時間や立場に配慮する姿勢が問われます。倫理的な配慮は、取材対象との信頼関係を守り、継続的な協力を得るための基礎です。個人情報の取り扱いや表現の公平性に注意しつつ、インタビュイーの心理的・実務的な負担をできるだけ減らす工夫を取り入れましょう。
プライバシー・守秘の配慮
収集する個人情報は最小限にし、保管期間や削除手順を明記してください。機密数値は黒塗りやレンジ表現での処理が有効です。
| 項目 | ポリシー | 運用 |
|---|---|---|
| 個人情報 | 最小収集/目的内利用 | 保管期間/削除手順を明記 |
| 機密/数値 | 事前確認/黒塗り選択肢 | 数字はレンジ表現も可 |
| 写真/映像 | 掲載前の選定共有 | 顔出し/匿名の両案提示 |
フェアネスと言葉遣い
インタビューでは、聞き手の言葉選びがそのまま場の空気や回答の質に影響します。中立的で差別のない表現を心がけることは、インタビュイーへの敬意を示す基本です。また、専門用語や業界特有の言い回しは、相手や読者に応じて平易な言葉へ言い換える姿勢が、対話の円滑さにつながります。異なる意見や違和感がある場合も、対立を生む形ではなく、問いとして提示することで建設的な議論を促せます。
- 中立的・非差別的な表現を徹底する
価値判断を含む言い回しやラベリングを避け、事実と意見を切り分けて扱います。
- 誤解リスクの高い専門用語は言い換えを提案する
必要に応じて補足説明を加え、相手や読者が理解しやすい表現に整えます。
- 異論は「問い」として示す
「本当にそうですか?」と否定するのではなく、「どのような状況でそう感じやすいですか?」と聞くことで、対話を深められます。
負担軽減と時間管理
インタビューでは、相手の集中力や疲労に配慮することが、結果的に回答の質を高めます。無理に時間を引き延ばすよりも、集中できるリズムを意識した進行が重要です。
- 60分を基本とし、集中は45分で切り替える
実質的な集中時間は45分程度を目安とし、後半はまとめや補足に充てると安定します。
- 休憩の挿入やオンライン特有の疲労に配慮する
必要に応じて短い休憩を挟み、オンラインの場合は画面疲労を前提に進行を調整します。
- 終了5分前に「あと1問」を宣言する
残り時間を共有することで、相手が安心して最後の回答に集中できます。
実施後の振り返りと編集
現場が終わったらスピード感を持って整理と確認に入ります。録音のトランスクリプト化、事実確認、インサイト抽出、記事化の流れを効率よく回しましょう。
メモ・録音の整理と事実関係の確認
24時間以内に要点を整理し、逐語起こしは自動化→人手で精査の流れが現実的です。数字や肩書きは当人確認を取って正確さを担保します。
| ステップ | 実務 | ツール/工夫 |
|---|---|---|
| アンロード | 24時間以内に要点を追記 | タイムスタンプ連携 |
| 逐語起こし | 自動起こし→人手で整形 | 誤変換辞書 |
| 事実確認 | 数字/固有名詞/肩書の確認 | 対象者チェック依頼 |
インサイト抽出と構成案の作り方
発言をテーマ別にマーキングし、例外探索やPREP構成を用いて記事の骨子を作ります。ここでの作業が記事の読みやすさと説得力を左右します。
| 技法 | 手順 | 産物 |
|---|---|---|
| テーマ別マーキング | 付箋/色分け | 引用ブロック集 |
| 例外探索 | うまくいく/いかない比較 | 再現条件 |
| PREP/物語型 | 結論→理由→具体→示唆 | 見出し案 |
記事化・校正・確認のプロセス
初稿では熱量を残しつつ、校正で正確さと読みやすさを加えます。確認ラウンドは事実優先で差し戻しに対応し、公開時には配信導線を最適化しましょう。
| フェーズ | 目的 | 具体作業 |
|---|---|---|
| 初稿 | 熱量を保つ | 冗長削除/話し言葉最小限 |
| 校正 | 正確さ/読みやすさ | 表記統一/数字表 |
| 確認 | 信頼形成 | 事実優先で差し戻し対応 |
| 公開 | 伝播設計 | 見出し/OGP/導線最適化 |
| 追記 | 鮮度維持 | アップデート/注記 |
おわりに
インタビューは「準備で勝ち、現場で整え、編集で仕上げる」仕事です。特に事前チェックリストを運用化し、台本と合意形成を磨くほど、当日の会話は本質に近づきます。まずは次回の取材で「マスト5問の定義」「反証質問の準備」「録音2系統の冗長化」から手をつけてみてください。小さな改善を積み重ねることで、信頼と洞察の深さは確実に変わります。


