声のデータを成果につなげる!ボイスオブカスタマー(VoC)分析の基本ガイド

目次

はじめに

「ボイスオブカスタマー(Voice of Customer, VoC)」の分析は、顧客の声を集めて読み解き、製品やサービスの改善、CX(顧客体験)の向上につなげるための重要な取り組みです。市場や顧客行動の変化が速い今、感覚だけに頼らず、顧客の声をもとに判断することが求められています。

一方で、VoCは集めるだけでは成果につながりません。どこから手を付け、どう整理し、どう活用するのか。実務ではその全体像が見えにくいことも少なくありません。

本記事では、VoC活用をこれから始めたい方や、取り組みを整理し直したい方に向けて、分析や活用の全体像を実務視点で整理します。技術解説に偏らず、現場で実行・運用するための考え方を中心にまとめています。

VoCの基礎知識

VoCとは、文字通り「顧客の声」を指しますが、現代のマーケティングやカスタマーサクセスにおいては、単なるアンケート結果以上の広い意味を持ちます。まずは、VoCの種類と分析の全体像を整理しましょう。

顧客の声(VoC)とは

VoCは、その収集方法や性質によって大きく3つに分類されます。これらを組み合わせることで、「顧客が何を考え、どう行動しているか」を多角的に把握できます。

区分典型的な入手先メリットデメリット/留意点
Unsolicited VoC
(受動的)
コールセンター通話、SNS、レビュー本音や率直な評価が出やすい。緊急性の高い課題が見つかる。ネガティブな声に偏りやすい。音声のテキスト化などの工数がかかる。
Solicited VoC
(能動的)
アンケート、NPS、インタビュー企業の知りたい目的に沿って聞ける。回答者の属性を制御しやすい。回答率の低下や、設問設計によるバイアス(誘導)が起きやすい。
Silent VoC
(行動)
WEB・アプリ行動ログ、購買履歴言葉にならない「事実」がわかる。全ユーザーの動きを網羅できる。「なぜその行動をしたか」という理由まではデータのみで判別できない。

VoC分析とは

VoC分析とは、集まった膨大なデータを構造化し、ビジネスの意思決定(アクション)に変換するプロセスです。その構成要素をまとめると以下の通りです。

観点内容
目的顧客の不満・要望・期待・評価を構造化し、改善意思決定とCX向上・収益成長に直結させる
インプットコールログ、通話書き起こし、アンケート(CSAT/NPS/自由記述)、SNS投稿、レビュー、行動ログ
主な手法テキストマイニング、感情(センチメント)分析、トピック抽出、クラス分類、CSポートフォリオ分析、コール理由分析、相関・回帰分析
アウトプット改善優先度の高い課題リスト、機能/UI改善仮説、FAQ改定案、メッセージ/コンテンツ仮説、顧客セグメント別傾向
活用先プロダクト・CS・マーケ・営業・店舗運営・経営指標(LTV/解約率/粗利)

VoC分析は単発ではなく「収集→統合→分析→共有→アクション→効果検証」のサイクルを継続して回すことで効果が高まります。重要なのは、分析結果を現場が実行できる形に落とし込み、改善の結果を再計測して学びを蓄積することです。

VoC活用のメリットとビジネス価値

VoCを収集・分析する最大の意義は、顧客の声を「主観的な感想」で終わらせず、「客観的な経営指標(KPI)」と結びつけて事業成長の原動力にすることにあります。以下に挙げる実例や数値はあくまで参考値ですが、VoC活用がもたらすビジネス価値を7つの観点で整理しました。

顧客満足とロイヤルティの向上

VoCに基づき優先順位をつけて改善を繰り返すことで、顧客との信頼関係が深まります。小さな改善の積み重ねが、最終的には解約防止やリピート増という大きな成果に繋がります。

得られる効果代表KPI
満足・推奨の増加CSAT、NPS、CES
離脱抑制解約率、チャーン理由の減少
リピート増リピート率、購入頻度

製品・サービス改善や新規開発へのインプット

顧客の「生の声」は、開発側が気づかなかったUIの摩擦や新機能のヒントを教えてくれます。継続的に声を追うことで、PMF(プロダクトマーケットフィット)の検証にも役立ちます。

期待できる効果代表KPI
機能の磨き込み機能別満足度、利用率
新規ニーズ発見新規トピック出現、要望件数

マーケティング施策・コンテンツの高度化

顧客が日常で使っている言葉や悩みを直接マーケティングに反映させることで、広告やLP(ランディングページ)の訴求力が飛躍的に高まります。

期待できる効果代表KPI
訴求精度向上CTR、CVR、CPA
SEO/UGC強化自然検索流入、UGC量

実店舗ビジネスでは、レビューや地域特有の声をMEO(マップ検索最適化)に活かすことで、来店導線の強化にも繋がります。

収益・利益の拡大

満足度の高い顧客はロイヤル化しやすく、収益に貢献します。一方で、VoCをFAQなどのセルフサービスに還元することで、サポート部門のコスト最適化も同時に実現できます。

期待できる効果代表KPI
LTV向上ARPU、継続月数、アップセル率
コスト最適化AHT、FCR、自己解決率

顧客体験(CX)と問い合わせ対応の品質向上

接点ごとの「摩擦」を特定し、応対スクリプトやUIを改善することで、顧客がストレスを感じない「滑らかな体験」を提供できるようになります。

期待できる効果代表KPI
応対品質平準化QAスコア、FCR
体験の滑らかさCES、完了率

進め方の全体像(プロセス)

VoC活用を成功させるカギは、一度に完璧を目指さず「小さなサイクルを早く回す」ことにあります。導入から改善までの標準的なプロセスを1つの表にまとめました。

フェーズやるべきこと(ポイント)よくある失敗例
1. 目的・KPI策定「誰の」「どの体験」を改善するか絞る。90日で成果が見える最小単位を設計。目的が「顧客理解」のみで曖昧。指標が多すぎて優先順位が不明。
2. 収集チャネル設計目的に合わせて「受動・能動・行動」のVoCを組み合わせる。同意取得も忘れずに。一つのチャネル(例:SNSのみ)に依存し、情報の偏りに気づかない。
3. 収集・分析クリーニングや表記ゆれ排除を徹底。AIやツールを活用し、解析を効率化する。ノイズが混入したまま分析し、誤った結論を導き出してしまう。
4. 共有・施策立案「何が起き、なぜ、何をする」の順でストーリー化。影響度と工数で優先度を付ける。単語頻度の羅列で終わり、誰も動かない「宿題」になってしまう。
5. 効果検証・定着施策前後のKPIを比較。成功・失敗の要因をドキュメント化し、ナレッジにする。一度きりのイベントで終わり、組織の「文化」として定着しない。

分析アプローチと代表的な手法

収集した膨大なVoCから「意味のある示唆」を取り出すには、目的に合わせた分析手法の選択が不可欠です。近年ではAIの活用により、大量の非構造化データ(音声・テキスト)を素早く構造化できるようになっています。

AI・自然言語処理による自動解析

AIを活用することで、人手では不可能な規模のデータをリアルタイムに可視化できます。

手法・機能できること具体的な活用例留意点
音声認識・自動要約通話のテキスト化と要約コール理由の自動付与、ACW(後処理時間)の削減業界用語や固有名詞の辞書登録が必要
感情(センチメント)分析ポジ・ネガ・中立の判定SNSの炎上監視、応対品質の可視化皮肉や逆説的な表現の誤判定に注意
トピック抽出(分類)話題ごとの自動グループ化FAQのテーマ特定、新機能への要望検知精度維持のため継続的な学習が必要
リアルタイム感情可視化通話中の感情を即時推定SV(管理者)による介入判断の支援プライバシー配慮と誤検知時の運用設計

AIは傾向把握に優れていますが、文脈の微細な解釈では誤判定も起こります。「AIで全体像を掴み、重要な箇所は人間が原文を確認する」という使い分けが現実的です。

テキストマイニングによる傾向把握

単語の出現頻度や関係性を可視化し、顧客が何について語っているのかを直感的に把握します。

分析の目的主な手法出力されるもの成功の秘訣
キーワード傾向の把握形態素解析、共起ネットワーク頻出語、関連語(セットで語られる言葉)表記ゆれ辞書を整備し、ノイズを省く
全体像の可視化ワードクラウド単語の大きさが頻度を表す図定量的な数値とセットで解釈する

導入を支えるツール・システム

VoC活用を支えるテクノロジーは多岐にわたります。自社の課題が「収集」にあるのか「分析」にあるのか、あるいは「共有・活用」にあるのかによって、優先すべきツールのカテゴリが変わります。

目的別の主要ツール・システム

カテゴリ主な用途とメリット選定の重要ポイント
CRM/顧客管理顧客属性とVoCを紐づけ、特定セグメントの声を深掘りする外部API連携の柔軟性、閲覧権限の細かな設定
音声認識・通話分析コールセンターの通話を可視化し、応対品質向上と分析を自動化する日本語の認識精度、雑音耐性、リアルタイム性
テキスト解析・SNS分析大量の非構造化データ(自由記述やSNS)から感情やトピックを抽出する業界用語への辞書対応、センチメント(感情)判定の精度
アンケート作成・集計NPSやCSATを効率的に収集・管理する回答者のストレスが少ないUI、匿名化・セキュリティ対応
VoCダッシュボード各チャネルの指標を統合し、全社で横断的に可視化するデータのモデリング機能、直感的なレポート作成
行動分析ツールWEBやアプリ上の行動ログから、顧客の「沈黙の声(Silent VoC)」を捉える過去ログの保持期間、プライバシー保護(GDPR等)への対応

ツール選定を失敗させない「3つの基準」

ツールを選ぶ際は、機能の豊富さだけでなく、以下の3つの視点で自社の環境にフィットするかを確認しましょう。

  1. 既存システムとの「連携性」
    VoCは単体では価値を発揮しにくいデータです。CRMやDWH(データウェアハウス)、ビジネスチャット(Slack/Teams等)とスムーズにデータ連携できるかが、運用定着の鍵となります。
  2. 日本語解析の「精度と辞書」
    特にテキスト解析や音声認識では、日本語特有の表現や業界専門用語を正しく認識できるかが重要です。自社で辞書を簡単にメンテナンス(拡張)できるかを確認しましょう。
  3. 現場が使いこなせる「操作性」
    分析の専門家だけでなく、マーケティングやCSの担当者が直感的に操作でき、必要なレポートを自ら作成できるツールを選ぶことが、分析の民主化に繋がります。

最初からすべてのツールを揃える必要はありません。「今の最優先課題(例:コールセンターの工数削減、または解約理由の特定)」を解決できる最小限の構成から始め、効果を実感しながら拡張していくのが現実的です。

成功のための体制整備とロードマップ

ツールは「導入して終わり」ではありません。現場で活用され、成果を出すための運用設計をセットで行いましょう。

組織に必要な3つの要素

  1. ガバナンス: データの利用同意、匿名化、権限管理などのルール化。
  2. オーナーシップ: 部門横断で改善を進める責任者(VoC委員会など)の配置。
  3. フィードバックループ: 「施策→効果検証→学習」を回し続ける仕組み。

成果を出すためのマイルストーン(目安)

最初からすべてを揃えず、90日スパンで段階的にスケールしていくのが現実的です。

期間目標期待される成果(KPI例)
0–90日ダッシュボード構築・初回改善特定理由の入電削減、ネガティブ率の低減
90–180日改善プロセスの再現性確立NPS/CSATの上昇、改善アクションの定常化
180日〜収益最適化・文化化LTVの向上、顧客視点での意思決定の浸透

まずは「コールセンターの工数削減」や「特定の解約理由の特定」など、今の最優先課題を解決できる最小限の構成から始めましょう。効果を実感しながら拡張していくことが、社内の理解と協力を得る近道です。

また、ツール選定時は「既存SaaSの活用」から始め、運用の型が固まった段階で「CRM連携」や「内製化」へ移行するなど、段階的な拡張を視野に入れるのが現実的です。最初から完璧なシステムを目指さず、変化に対応できる柔軟性を優先しましょう。

運用時のポイントと注意事項

VoC活用は「始めてからが本番」です。運用を軌道に乗せ、誤った意思決定を避けるために押さえておくべき3つのポイントを整理しました。

1. データの「偏り」を正しく認識し、補完する

単一のチャネル(例:コールセンターのみ)に依存すると、特定の層や強い感情を持つ顧客の声だけに振り回されるリスクがあります。

起こりがちな偏り主な原因対策
ネガティブへの偏り苦情や問い合わせが中心アンケートやアプリ内調査で「満足している層」の声も拾う
属性の偏り特定チャネルの利用者層に依存若年層にはSNS、高齢層には電話など、ターゲットに合う窓口を用意
声の大きさによるバイアス頻出キーワードのみを重視「一部の顧客が何度も言っているのか」「多くの顧客が一度ずつ言っているのか」を区別する

「自発的な声(受動)」「企業が聞いた声(能動)」「行動ログ(事実)」を統合して判断しましょう。

2. 「解釈の罠」を避け、客観的な優先順位をつける

全ての不満を解消しようとすると、リソースが分散してしまいます。データに基づき、冷静に優先度を判断することが重要です。

注意すべきリスク内容回避するための打ち手
声量バイアス件数が多い課題を重要と思い込む影響度 × 実行容易性のマトリクスで評価。収益貢献度で重み付けする
擬似相関の誤解単一の数値だけで因果関係を断定する定量データで傾向を掴み、定性(インタビュー等)で真実を確認する
一過性の反応への過剰反応リリース直後のスパイクに慌てるABテスト等で仮説検証を行い、一時的な反応か本質的な課題かを見極める

3. 自動化を前提に「運用コスト」を最適化する

初期は手作業が多くなりがちですが、属人化を防ぎ継続性を高めるために、早めのパイプライン化(仕組み化)を検討しましょう。

フェーズ主な工数と課題効率化の打ち手(自動化領域)
収集・整形音声の書き起こし、タグ付け音声認識+自動要約の導入。CRMとのAPI連携で二重入力を解消
分析・可視化定期的な集計、レポート作成ダッシュボードの自動更新。定型レポートのバッチ処理化
共有・対応関係者へのアラート、情報展開異常値を検知した際のビジネスチャットへの自動通知

外部の専門支援を受ける場合は、「分析そのもの」を丸投げするのではなく、上記のような「自動化の仕組みづくり」や「社内スキルの育成」にリソースを割くと、中長期的なコストパフォーマンスが高まります。

おわりに

ボイスオブカスタマー(VoC)分析は、顧客の言葉と行動を事業の意思決定に直結させ、CX改善からLTV・利益の最大化までを推進するための最短距離です。成功の鍵は、目的に紐づくKPIを定め、複数チャネルの声を統合・構造化し、部門横断でアクションと検証を繰り返すことにあります。

まずは90日を目安に「小さく始めて、確実に1つのKPIを動かす」ことから始めてみてください。最初から完璧を目指す必要はありません。顧客の声を継続的に聴き、学び、改善し続ける組織へ。今日、最初の一歩を踏み出すことが、未来の顧客体験を変える大きな転換点になるはずです。

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