なぜ人はそれを買ったのか?デプスインタビューで読み解く購買心理と活用術

目次

はじめに

「購入動機を知りたい」「インタビューの進め方や事例を知りたい」。そんなニーズに応えるため、本稿では購入動機インタビューの考え方から実践・活用までを一通り整理しました。消費者インサイトの基本、購買心理を8つのステップで捉える視点、段階別の心理トリガー、デプスインタビューの進め方、そして実務での活用事例までを網羅しています。

まずは、「人はなぜ買うのか」を表層の理由で終わらせず、言語化するための考え方から押さえていきましょう。

消費者インサイトと購買心理の基礎理解

インサイトの捉え方(表層の声の奥にある動機)

インサイトとは、当人も自覚していないことが多い“行動の裏側にある理由や価値観”です。たとえば「安いから買った」といった表層の説明の裏に、「損をしたくない」「失敗したくない」といった別の動機が隠れていることがよくあります。

インサイト探索の基本は、まずは具体的な行動の事実を聞き、そこから理由や感情、さらに価値観へと段階的に掘り下げ、矛盾や逡巡(ためらい)の兆候を見つけることです。以下は、表面的な発言に対して追加で聞くべき視点と、想定される深層動機の例です。

表層の発言追加で問う奥にある可能性のある動機(例)
安いからどのくらいの差で「高い」と感じますか?損失回避、価格アンカー、予算制約による安心感
口コミが良かったどの点の口コミが刺さりましたか?同調・社会的証明、不確実性の低減
有名ブランドだから具体的にどんな安心がありましたか?権威バイアス、購入後の後悔回避、周囲の目を意識

こうした問いを順に重ねることで、単なる表面的な理由を超え、行動を駆動するコアな感情や価値観に近づけます。

「購買心理」とは何か?意思決定に至る心の流れ

購買は、ある瞬間に突然起こるものではありません。多くの場合、人は小さな違和感や不満をきっかけに、情報を集め、比較し、迷いながら、納得できたタイミングで購入に至ります。つまり購買とは、時間をかけて進行する心理のプロセスです。そのため重要なのは、「なぜ買ったか」という結果ではなく、そこに至るまでの心の動きの流れを捉えることです。

たとえば、

  • いつ課題を自覚したのか
  • 何を基準に比較し、どこで不安を感じたのか
  • 最後に背中を押した要因は何だったのか

こうした点は、インタビューで順にたどることで初めて言語化できます。

実務では、この心理の流れを段階ごとに整理すると、「どこで何を聞くべきか」「どこに施策の余地があるか」が見えやすくなります。本稿では後半で、購買行動を8つの心の動きとして整理していきます。

深い洞察を得るのにデプスインタビューが有効な理由

デプスインタビュー(以降デプス)は、購買行動の背景にある考えや感情を理解するのに適した手法です。主な理由は次の2点です。

  • 微細な矛盾や感情の揺れを捉えやすい
    1対1の対話では、言いよどみや沈黙などから、表面的な説明と実際の行動のズレが見えてきます。時系列で振り返ってもらうことで、本人も意識していなかった判断の背景が言語化されることがあります。
  • 個別の気づきを、汎用的な示唆につなげやすい
    一人ひとりの深掘りから、共通する価値観や考え方の傾向を見つけることで、後続の調査や施策を考える際のヒントになります。

本章で押さえておきたいのは、購買動機は単一の「答え」ではなく、時間の中で積み重なる心の動きだという点です。

調査手法の比較と使い分け

定量データだけでは掴めない“なぜ”がある

定量調査は「どれくらい起きているか」を把握するのに適していますが、「なぜそうなったのか」までは十分に説明できません。その背景にある考え方や迷い、判断のプロセスを捉えるために用いられるのが、定性調査です。定性調査にはいくつかの手法があり、目的に応じて使い分けることが重要です。

面接法の種類と特徴

それぞれの手法に得意領域と注意点があります。目的に合わせて選びましょう。

手法概要得意領域注意点
個別深掘り(デプス)1対1で30–120分(目的・深さに応じて)動機・価値観・矛盾の発見対象者選定や進行力が成果を左右
グループディスカッション4–8名×60–120分意見の広がり・想起喚起同調や発言偏りが起きやすい
オンラインインタビュービデオ通話で実施地理的拡張・自宅の観察接続トラブル・非言語情報の制約

デプスとグループの違いと利点

定性調査の中でも、特に使われることが多いのがデプスインタビューとグループインタビューです。両者の違いは、「引き出したい情報の深さ」と「相互作用の有無」にあります。

デプスインタビュー

  • 1対1で行うため、個人の価値観や迷い、意思決定プロセスを深く掘り下げられる
  • 購入理由や行動背景など、「なぜ」に迫りたい調査に向いている

グループインタビュー

  • 複数人のやり取りから、共通認識や意見の広がりを把握できる
  • 新しいアイデアや評価軸を探索したい初期段階の調査に向いている

どちらが優れているかではなく、「深さを取りに行くのか」「広がりを見たいのか」によって選択することが重要です。

インタビュー調査の主な活用シーン

インタビューは、プロダクトやコミュニケーション設計、事業仮説づくりなど、さまざまな場面で使えます。ここでは、実務でよく使われる代表的な活用シーンを、目的・分かること・活用イメージの3点で整理します。

活用シーン目的分かること活用イメージ(例)
生活者の価値観や考え方を知るターゲット像を具体化する大切にしていること、判断の基準「片付いた家=安心感」→訴求軸に反映
購入までの流れを整理する迷いや離脱ポイントを見つけるどこで不安になったか、決め手入力が面倒→購入フロー改善
商品・サービスの使われ方を知る改善点を見つける困った瞬間、使いにくさ初回操作で離脱→導線を修正
表現やメッセージを確かめる伝わり方を確認する「自分ごと」になった理由時間短縮訴求が好反応
施策や企画の仮説づくり次の一手を考える想定外の使い方や理由割引より「自動化」が決め手

購買行動を分解する8つの心の動き

購入動機インタビューの目的は、「なぜ買ったのか」という結果ではなく、購入に至るまでの心の動きの流れを捉えることです。
本章では、購買行動を8つの段階に分解し、各フェーズで何が起きているのか/何を聞くべきか/施策にどうつながるかを整理します。この8ステップは、インタビュー設計から分析、施策化までをつなぐ共通のフレームとして活用できます。

ステップ核となる心理インタビューの鍵質問典型バイアス/阻害要因
1. 課題の自覚もやもや→言語化最近「こうだったら」の瞬間は?現状維持バイアス
2. 情報探索手がかり集め最初にどこで調べる?誰を頼る?情報過多、探索コスト
3. 候補の比較・評価基準の生成必須条件/許容妥協は?アンカリング、フレーミング
4. 意思決定最後の一押し何が決め手?最後の不安は?後悔回避、損失回避
5. 購入アクション実行の摩擦購入直前のつまずきは?UI/UX摩擦、認証疲れ
6. 使用後の評価期待との比較最初の使用体験を再現すると?期待値設定の誤差
7. 共有・推奨物語化どんな人にどう薦める?動機づけ不足
8. 継続・ロイヤルティ化習慣化・愛着続ける理由/やめるきっかけは?乗り換え容易性

重要なのは、すべてのユーザーが常にこの順番どおりに進むわけではないという点です。しかしインタビューでは、このフレームを「地図」として使うことで、

  • どこで迷っていたのか
  • どの段階が最も感情的だったのか
  • 本来ケアすべき不安がどこにあったのか

を抜け漏れなく捉えられます。

特に購入動機の核心は、③比較・④意思決定・⑤購入アクションのいずれかに潜んでいることが多く、「なぜこの条件が捨てられなかったのか」「なぜこの不安は最後まで残ったのか」を丁寧に追うことが、インサイト発見の近道になります。

段階別に活かす心理トリガー集

購買行動の各フェーズでは、意思決定に影響する心理トリガーが異なります。以下の表では、8つの心の動きに対応させて、特に影響力の大きい代表的なトリガーを整理しています。インタビューでは、「どの段階で、どの心理が働いていそうか」という仮説を立てながら読むことで、質問設計や発言解釈がしやすくなります。

フェーズ心のポイント実務での活用例
課題発見・情報探索気づきや興味を引く仕掛けセグメント限定の呼びかけや、属性に合わせたコピー
比較検討選びやすくする工夫条件を整理して選択肢を提示、他者の評価を示す
決断・直前背中を押す要素限定モデルや期間限定の特典、実績を見せる
購入後安心感や信頼感トライアルや保証、丁寧なサポートで関係を強化

ポイントは、この心理を知っているからといって正解を当てるのではなく、発言を理解する手助けになることです。段階ごとの心理を意識するだけで、どこで迷いやすいか、どの言葉が響きやすいかが見えやすくなります。

マーケティングへの応用メリット

デプスで得たインサイトをマーケティングに落とし込むと、次のようなメリットがあります。

  • 顧客の状況に合わせたメッセージが作れる
    顧客がどの段階にいるかに合わせて、伝える内容やオファーを調整できます。たとえば、問題に気づき始めた段階では「こんなことで困っていませんか?」と課題を提示し、比較段階では導入事例を示して判断材料を補強する、といった使い分けが可能です。
  • 不安を和らげ、信頼関係を築ける
    保証や第三者の評価、先回りした不安への対応などで、心理的に安心してもらえます。「自分のことを理解してくれている」と感じてもらうことで、長期的な関係につながります。
  • メッセージの理解と納得が両立できる
    事実(機能)だけでなく、意味づけ(価値や情緒)や他者の証明を組み合わせると、顧客に正しく伝わり、納得感が増します。その結果、購入やリピートにつながりやすくなります。

実務の進め方(企画〜実査〜分析〜施策化)

プロジェクトを進める際は、設計から実施、分析、施策化までの流れを意識するとスムーズです。以下に、実務チェックリストとポイントをまとめます。

調査設計とガイド作成

要素ポイントチェック
リサーチクエスチョンビジネス意思決定に直結する質問にその答えで何を変えるか明確か?
対象者定義行動ベースで切る直近購入・乗り換え経験があるか?
ガイド行動→理由→感情→価値観の流れオープン質問中心で誘導を避ける
倫理・同意目的・録音・匿名化を明示事前合意書と保護体制は整っているか?

サンプル質問(購入動機インタビュー例)

  • ウォームアップ:普段の生活で時間やお金を使う優先順位を教えてください。
  • 行動再現:直近で[カテゴリ]を購入した時の一連の流れを最初から最後まで教えてください。
  • 比較軸:どの点で候補から外しましたか?「捨て条件」は?
  • 決め手:最後に背中を押した一言・情報は何でしたか?
  • 不安:購入直前まで残った不安は?どう解消されましたか?
  • 期待:評価:最初の使用体験で「驚き」と「がっかり」を一つずつ。
  • 共有:誰にどう薦めたい/薦めたくないか?理由は?
  • 価値観:それはあなたにとってなぜ重要ですか?

リクルートとスケジューリング

スクリーニングで対象者が調査に合っているか確認しましょう。注文履歴やレシートの提示可否を確認すると、回答の信頼性が高まります。

スケジュールは参加しやすい時間帯に設定します。平日夜や土曜午前に枠を多めに用意し、オンラインでは接続テストを必須にします。案内文で所要時間や録音・匿名性も伝えると安心感が増します。

実査運営と記録の最適化

調査実施中は、発話や行動の細かい情報を逃さず記録することが大切です。以下の観点で整理すると効率的です。

項目ベストプラクティス
記録録音+要約メモ+タイムスタンプで重要発話を残す
観察言いよどみ、笑い、ため息、沈黙の前後を記録する
道具画面共有で検索履歴や購入画面を見せてもらう、実物やパッケージを用意してもらう

分析・解釈(コード化とパターン抽出)

分析は発話の分割→コード付与→カテゴリー化→テーマ化→意味連鎖(ラダリング)という流れで進めます。頻度だけでなく「強度」「矛盾」「感情の振れ」を重視し、最終的にはインサイト文(誰の、どんな文脈で、何に気づき、なぜ重要か)にまとめます。

インサイト文フォーマット(例)

[対象者/状況]は、[トリガー/制約]のため、[望み/恐れ]を抱え、[回避/追求]したい。だから[行動]し、[この属性]が[機能/情緒]を満たすとき選ぶ。

施策への落とし込みと検証ループ

フェーズ施策化検証
課題自覚課題を言語化するコンテンツ作成想起率・スクロール深度
比較評価三択プラン設計/意味単位の変換CVR・選択分布の変化
決断直前社会的証明・保証の提示カゴ落ち率・決済完了率
使用後オンボーディングやチュートリアルアクティベーション率・CSAT

インサイトから施策への落とし込みは仮説→小規模検証→拡大のサイクルで回すのが現実的です。

おわりに

購入動機は「価格」や「機能」といった表層だけで語り切れるものではありません。実際には、課題の自覚から共有・継続にいたるまで、人間の感情や社会的文脈、手間といった要素が複雑に絡み合っています。デプスインタビューは、そうした文脈を具体的なエピソードから掘り起こし、意味の連鎖として再構成するための有力な方法です。

今日から始められる一歩はシンプルです。直近の購買行動を一件だけ、事実→理由→感情の順で聞き、沈黙を恐れずに待つ。そして最後に「それはなぜ大事ですか?」を一度だけ追加で問う。これだけで、表層の「理由」の裏にある動機の片鱗が見えてきます。得られたインサイトをもとに、コミュニケーションやUX、商品設計を一貫させる小さな検証を積み重ねることで、再現性のある成果につながります。次のインタビューでは、ぜひ顧客の「本当の購入動機」に会いに行きましょう。

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